「介護マニュアル」にはないだろうプラスアルファの思いやり

私は今までに「人に寄り添う介護」という言葉を多く使ってきている。多くの読者はその大方の意味は理解すると思う。

私は「介護マニュアル」を見たこともないしその研修内容を聞いたこともない。三年を介護現場で働いてきて受験する国家試験に合格して初めて「介護福祉士」の資格を持つらしい。それだからそのマニュアル通り実行していれば十分だともいえる。

ただ私が「これが介護か!」と感銘した場面はいくつもあり、それらは多分「マニュアル以上」の介護に思える。つまり「介護」に向き合う真摯な姿勢とでもいったらいいだろうか。入居者目線で見たその場面は今でも鮮明に甦ってきて私の心をほっこりさせてくれる。そうした場面を書き残したい思いは以前からもっていた。

第一に思い出すのが就職実習で老人ホームを見学した時に「カッコイイ!」と言ったのを耳にした時だ。介護をネガティヴに思っていた私にはまさに「目からウロコ」の言葉だった。

しかもそれからしばらく経ってのことだ、私がそのスタッフに「それでもその熱い気持ちも萎えることがあるでしょう」と言うと、「だって困っている人がいるんですよ」と即座に、それもさりげなく答えてくれた。

常にスタッフたちに負い目を感じている私の心が少しだけ軽くなった。綾野さんが体調をくずして数日部屋に食事も運んでもらっていた。

彼女がダイニングに下りてきた時、彼が「良かったですね。久し振りに下りてこれて」と声をかけるのを聞いた。私は彼がその数日間心配していたことを知って「入居者を見ているんだ」と思った。

 

👉『終の棲Ⅵ』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】夫の不倫現場に遭遇し、別れを切り出した夜…。「やめて!」 夫は人が変わったように無理やりキスをし、パジャマを脱がしてきて…

【注目記事】認知症の母を助けようと下敷きに…お腹の子の上に膝をつき、全体重をかけられた。激痛、足の間からは液体が流れ、赤ちゃんは…