私の入居には松沢病院が深く関わっていたので自己紹介の中で「将軍池の由来」を語った時、Iさんは「私も実は拒否反応をもっていましたよ。それで孫が松沢中学に入学した時、孫が同じ松沢が付いているのを嫌いましたね」
私はIさんの孫の思いを聞いた時には「悲しみ」しかなかった。孫の世代にまでその誤った風評が浸透していることに対してである。
しかしこの「悲しみ」を上回る「喜び、感動」があった。ホームでは最近シーツ交換などはスタッフではなく外部からのサポーターがしている。その日もノックしてシーツ交換に入ってきたのは見知らぬ女性だった。聞くと介護福祉士の資格は持っているけれど、今はアルバイトでサポーターを務めているということだった。
シーツ交換は掛布団のカバー、シーツ、枕カバーなどを替えるのでそれなりの時間がかかる。その間ティールームで待機する入居者もいるが私はそのまま部屋で彼女の手伝いをした。
その時、私がこのホームに入居したきっかけとなった都立松沢病院の「将軍池の由来」を話した時だった。「あったかい!」彼女は顔まで明るくして手を差しのべて私に握手を求めた。
この「あったかい!」は私が将軍池の由来を読んだ時と全く同じ感動だったことに私の方が驚いてしまった。さらに仕事を終えて出ていく時に「いいお話を聞かせていただきました」と言ってもう一度握手を求めたのである。
それは私にも固い、あたたかな握手だった。そのあたたかな思いは今でも私の心に残っていてほっこりする。