【前回記事を読む】クリスマスが近いのに、相手がいない私は今日も残業。すると、課長が近づいてきて…。

プロローグ 二〇一九年

それから課長は葵に背を向けたままポツリポツリと呟き始めた。

「実は俺も少し興味があってね。ちょくちょく調べたりしてるんだ」

「調べるって……?」

「死神の姿かたちとか」

「えっ」

「死神は一見、普通の人間の姿をしているらしい」

「普通の人と区別がつかないってことですか?」

「あぁ。もしかしたら普通の人間に紛れて虎視眈々と命を狙ってるのかもしれないぞ。実は俺、死神に姿形をそっくりコピーされた偽物だったりして。本物はとっくの昔に殺されてたり」

「……怖がらせないでくださいよ」

「こういう話をした直後に遭遇するのってホラー映画だとお決まりだろ?」

「……あ、分かった。課長、アタシを帰らせようとしてますね。はいはい分かりました、帰りますって」

「唯一おかしな点があるとしたら、喪服のような服装でいるらしい」

課長はいつも黒いスーツを好んで着ているため一見しただけでは喪服と見分けづらい。すぐに分かるのはネクタイくらいだ。今日は青色のネクタイを着用していた。それを知っているからこそ、課長は挑発するようにゆっくりと葵のほうを向いた。

「こんな風にな」

確かに分かりづらい。しかし光沢がないゆったりとしたシルエットを持つ漆黒のスーツは紛れもなく喪服で、ネクタイも黒だった。葵は背中にジットリと冷汗を掻いた。

「ア、アタシを驚かそうとしてるんですよね……? それ忘年会用の一発芸ですか?」

「少し付き合ってもらえるか? 〝私〟を呼んでる人がいるんでね」

それが葵と死神の出会いだった。