その紹介してもらった恩師は江美に惚れていたようで、スナックへ頻繁に通っていたようだ。凄く優しい方だったが、かなりの女好きのスケベおじさんだった。
恩師は酔っぱらった時にこんな事を言っていた。
「一度だけ江美をものにした」
勝也もこの頃には色んな経験や、人からの話を聞き大人になっていたので、男と女はそんなものだと気にもしなかった。
そんなある日、数ヶ月間、「仕事が切れる」と恩師から連絡があり、勝也は凄く焦った。従業員や家族を守らないといけない。勝也は人一倍責任感が強い方だ。今から30年ほど前、バブル崩壊などかなりの不景気だった時期の事だ。勝也は、あちこちで声をかけ、仕事を探し回った。
時には畑違いの仕事をしたり、紗香のおじさんの三男、正之(まさゆき)にお願いしたりと、なりふり構わず必死だった。正之には凄く助けてもらっていた。
その頃正之は大きな現場で、ゴルフ場のクラブハウスの新築工事を請け負っていたので、しばらくはお世話になっていた。おじさんの奥さんも現場に手伝いに来ていた。結構な歳だったが暑い日も寒い日も一緒に働き、お昼ご飯を作ってくれる優しいおばさん。紗香の事や紗香の妹達の事も気にかけてくれていた。勝也は周囲の人達に感謝しかなかった。
この現場も終わり、恩師の所に戻ったり、また正之の所に行ったりしていた。
時には、おじさんが手伝いに来ていた事もあり、おじさんの𠮟咤激励を懐かしく思う事もあった。しかし、勝也は下請けであり、仕事がない時は呼んでもらえない。そんな事から、勝也は二人の従業員に「色んな仕事をするけど頑張って付いてきてくれな」と言っていた。
どんな業種でも通用するように屋号は「○○工業」としていた。時には鳶職、時には鍛冶屋、何もない時には掃除や雑用など、何でもしてきた。そのうち人も増やして大儲けする事を夢見て頑張っていた。
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