【前回の記事を読む】彼女は人の心を操作する超能力者のようだった。次第に「良い人」から「敵に回すと恐ろしい人」に印象が変わり…

独立

気が短くて頑固でドケチな嫌われ者のおじさんだったが、勝也には優しかった。息子達も口を揃えて言っていた。

「何で親父はお前に甘いんや、あの親父がガソリン入れてくれるんか?」

おじさんの従業員も「勝也が来てからは、帰りに焼肉に連れていってくれるし、雨で仕事が中止になると昼飯まで食わせてくれるようになったな」など。

勝也も毎日おじさんに怒鳴られて仕事をしてきたが、悪い人ではない事くらいは分かっていた。仕事が終わった後、おじさんの家に図面の見方を教わりに行ったり、雨の日にはおじさんと喫茶店で何時間も話をした。遅くまで図面を見た後には二人で近所の寿司屋さんに行ったり、時には1万円近くもするマッサージ付きのサウナにも連れていってもらった事もあった。

おじさんは寂しがりの意地っ張りだったのだろう。

勝也は、ボロカスに言われても言い返したり、自分が間違っていたら素直に謝ったり、おじさんには正面からぶつかっていた。勝也はそんなおじさんを本当に尊敬し、大好きだった。

独立すると言っても勝也はまだ19歳の未成年だったので、周りからは認められていなかった。一緒に仕事していた同級生と、一つ下の後輩に独立する事を伝え、「オレに付いてきてくれるか?」と聞いた。同級生は即答でOK、後輩は「少し考えたい」。勝也は無理してまでは来てほしくなかったので返事を待つ事にした。

数日後、現場から帰りの車内で、後輩が勝也さんに付いていくと言ってくれ、勝也は安心と共に心強さを感じた。そして勝也は江美のスナックのお客さんの所で仕事をさせてもらう事になった。勝也は何が何でも金儲けをして、江美に認めてもらおうと必死で仕事をした。

この頃もまだ、深夜の仕事を終わらせ、次の現場に向かう日々が続いていた。体力的にもかなり大変だったが、20歳過ぎという若さで乗り越えた。

そして勝也は、周りとの付き合いも大切だと考えていたので、人から誘われれば断る事はせず、居酒屋、スナックなどを巡り、時には一睡もしないまま現場に向かう事もあった。

今思い返すと勝也は江美の存在があったからこそ、ここまで頑張れたのだろう。江美に人生を変えてもらったと言っても過言ではない。紗香のおじさんに世話になり、そして江美のスナックのお客さんに仕事を紹介してもらい、現在もその仕事を続けている。