スズキ青年はA4のコピー用紙に動機不明、と記した。
「コオロギの人相は?」
「それがどこにでもおられるコオロギと同じ容貌で……」
スズキ青年はコピー用紙に無個性なコオロギ、と書き足した。
「それじゃあこれから捜索するから、連絡先を教えて」
召使いは自分の氏名、そして屋号に住所と電話番号を伝えた。召使いが去るとスズキ青年は勇んで捜索に乗り出した。広場の雑草の際やゴミ捨て場の隅を探してみた。
しかし埒が明かないことに気付かされた。虫はなりが小さく侮られるが、人にある種の霊感を授けるものである。虫の知らせというではないか。
つまり半身は生物ではあるのだが、半身は幽界に属するのである。そう気づいたスズキ青年は外術師のもとへ急いだ。商店街はどこまでも続いているが、そうした看板を掲げている店があるのである。捜査協力を願うと、外術師は同意をした。
「大店のお嬢様が大事にされているコオロギが行方不明となると、吾輩としても心配である。ぜひ捜索に協力しよう」
「天は無限に広がり、地は果てしない。人でさえこの世にあふれてさまざまな場所で生活をしているが、掌に収まる程度の小さい生命が気ままにふけるとなると、人の力では補いきれない。なにかいい知恵はあるか?」
外術師はしばらく目を伏し目がちに沈黙すると、やがて正眼となってなにかを確信した。
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