コオロギ 捜査網
生きていれば丸儲け、という言葉がある。スズキ青年はこれが大好きだ。仕事にあぶれてしまったが事業を起こした。商店街の通りに机を出し、「非公式警察」と表札を出して捜査の仕事を始めたのである。
友人は、「捕まる前に捕まえようっていうんだね。危機感に欠ける者の努力というのは、時に微笑をもたらすものだね」と笑いながら言った。
「ぜひ貨幣を取り締まりたいところだ」
人通りは多く、みな忙しく身過ぎ世過ぎを送っている。商店に飲食店、医療所や理髪店、町工場に印刷所……。人生の営みを食う寝る住むといい、そうしたことへの利便性に対して他者が助け、補っているのだ。
仕事の間に貨幣を中にはさみ、ねぎらう意味で相手に贈り、送られた相手は感謝の念とともにサンドイッチのように胃の腑に収めるのである。スズキ青年は誠仁な面持ちで仕事の発注を待ち構え、友人は人徳のある容貌でその姿を見守った。
すると人間至る所に青山あり、徳は孤ならず必ず隣あり、というところだろうか、捜査の依頼が舞い込んできた。
初老の男だ。身なりは小綺麗だが、身分は低いようだ。
「お巡りさん、私はさるところの大店に勤める召使いなのですが、うちのお嬢様が飼われているコオロギが行方不明になってしまいました。お嬢様はお嘆きです。どうか捜索をお願いします」
スズキ青年は問うた。
「コオロギの家出だね。動機に心当たりは?」
「それがまったく……。一昨日まで切ったキュウリを幸せそうにお召になっていましたから……」
「現場はどんな案配だった?」
「従者が最後に巣箱を掃除したときはまだいらしたようで、掃除したとき巣箱の蓋がズレてしまい、隙間から出ていかれたようです」
「それじゃあ誘拐ではないんだね。身代金の心配はないな」