【前回の記事を読む】人生の行き詰まりから霧の中を抜けて見えてきたのは粗末な門。そこへ老人が現れ、「ここは君がきていい場所ではないぞ」

仙人裁判

会議が終わり、妻と二人きりになった。利発な召使いが厨房を行き来し、気の利いた出来たての料理をタイミング良く運んでくる。

妻は深慮で聡明だ。そのうえ美しく気立てが良い。しかし灯火の下で美貌に陰りがあった。

「今年は作柄が良く、米も小麦も上等だった。しかしそれよりも、工場の労働争議が収まり、生産性は倍になって利益は10倍になった。しかしそれよりも、科学技術の発展が著しく、論文の数は倍になり特許の数は10倍になった。

しかしそれよりも、社会を生きる市民はますます巧妙となる社会の発展を理解し、イノベーションの連続に目まいすることなくただ事実を把握し、労働者の働きかけとともにひたすら共存する運命を受け入れている。

しかしそれよりも、箱船を取り巻く神々の力強い加護はますます強まり、果てしのない航海の目的地が蜃気楼の先に垣間見えるのである。しかしそれよりも、我が君は健やかで美しいが、今夜眉根を曇らすのは、いったいどうしたことですか」

すると妻は詩を述べるべきときに忘れてしまったような恥ずかしげで、「妾はあなた様の城構えに守られ、風雨を浴びることさえない安楽さです。あなた様はお仕事の間の後一服を、後になさって妾の愚痴に耳をそばだてるほどの気構えがおありですが、妾の図々しさをお笑いになるのではと案じるのです」と言った。

「僕は君の神秘さに憧れる山筋のウサギである。どうか秘密を打ち明け、この疑問に答えてほしい」

「それは実は、逆さなのです」

「どういうことか」

「妾は早朝夢見が悪く、あなた様より先に目覚めました。するとあなた様は夢に夢中で、寝相良くニヤッ、とお笑いになりました。妾はあなた様が笑顔になることをもっとも望みますが、あのような笑顔をみたことがありません。今後の励みといたしとう御座いますが、いったいなんの夢を見たのですか?」