スズキ青年は空白の時間を思い出そうと努めた。しかし……「サヴァンとしてこの世に生を受け、あらゆる困難を受け止めてきたが、その問いには窮した。皆目見当がつかない。どうか今回のことは忘れて、別の話題を振ってほしい」

今生の願いを撥ね付けられたと理解して、妻は言いよどんだがすぐにただ一度、言葉をただし「嫌! どうかお答えになって!」と気色ばんだ。

沈黙はアトラスの山々よりも重く、北冥の冬よりも厳しさを伝えた。エジプトの錦よりもあえかな妻の心理は、その緊張に耐えられなかった。妻はペンダントの自決用の毒薬を口にし、哀れな最期を迎えてしまった。その亡骸を抱いて、呆然としていると新しい料理皿を取りこぼした召使いが、「ああ、旦那様が奥方さまを殺めてしまった!」と叫んだ。

従者は治安部隊を呼び、治安部隊は思案した。ただでさえ市民と労働者は生きる道が違うのに、社会のリーダー層となるとどう対処して良いのかわからない。とりあえずスズキ青年は事情を説明するが、より高位の意思が働いたものか、有罪ということになってしまった。しかし裁き方が誰にもわからない。そこで東方の仙人に任せよう、ということになった。

神輿に担がれたスズキ青年は、箱船に生まれたことを後悔し、しかしもう戻ることはないと痛感した。神輿は厳重に取り締まりを受け、戒めも堅くしてやがて東方の山岳地帯へ放置された。

高地の夜は寒い。人里離れた土地であってもどこかで鐘楼の音が静かに鳴り響き、無常の思いに満たされた。

しばらくすると、天地に響き渡る声明がスズキ青年の怯える心をさらに打ち砕いた。