【前回の記事を読む】墓荒らしの最中、棺についた紙を剥がして確認すると、それは呪文の描かれたお札であった。その様子をみられてしまい...

仙人裁判

自分もこんな、欲望を煽られて危機に接近し、社会の風圧に逆らうことのできない、見せしめのような最期を迎える人生なのだな、と認識した。

ただなんとなく、納得をするわけではないが覚悟する心理が固まった。最後の薪を投げ入れ、目をつぶると入眠した。

早朝、目覚めた。濃霧が立ち込め、浜辺を押し包んでいた。波と浜辺と濃霧だけ。無意識に突き上げられて荷物をまとめると早々に出発した。

なにかがこの先に待ち構えている、と根拠なく確信があるのだ。

立ち込めた濃霧の中を進んだ。意識はいつになく覚醒していた。食欲はなかった。生きる目的も、手段もなかった。

砂浜に足跡を記しても、しばらくすると風紋に消され、自分が生きていた事実は、誰もがそうであるように、なかったことになってしまう。

豊穣な人生も、孤独な歩みも、生前はその境目は無限であっても、事が終われば一毛の差ほどなのではないか。

そんな気持ちになって、浜辺をいくらでも進んだ。白い闇に包まれて、進出も帰還もままならなくなると、粗末な門が見えた。その先に小屋があった。ここで行き先を尋ねよう。

門をくぐろうとすると、先に小屋から人が姿を現した。いくつ歳を取ったのかわからない老人だった。