【前回の記事を読む】赤い光がチラ、と目についた。あれはひょっとして…一攫千金を求めてスズキ青年がとった行動とは…
霊川怨球
あっ!
スズキ青年は叫んだ。
棺に紙幣が張り付いているのが確認されたのである。宝石ではないが、これは拾いものだ。スズキ青年は紙幣を剥がし、額面を確認した。
しかしそれは紙幣ではなく、呪文の描かれたお札であった。しかしなにか考古学的な価値があるのではないか。
お札を懐に入れると、いま、先人が苦悩して作り上げた戒めを、千古の怨みでその計らいを引き裂かんと、天地を傾ける意思を持った妖魅(ようみ)が蘇った! 棺の蓋は木っ端微塵に砕かれ、悪罵と陰火を引き連れて妖魅は立ち上がった。
妖魅は目の前のマヌケな愚人を引き裂いて喰らおうと、まずは陰火を差し向けて弱らせようとした。陰火は強烈な速さで虚空を滑り、スズキ青年を狙った。
しかしそこはスズキ青年も然る者、直線的な動きの陰火を、マイ・ラケットで打ち返した! スポーンと音を立てて跳ね返された陰火は妖魅の際を危うくそれた。死んでなお美しい妖魅は凄絶な憎しみの情を深くしてスズキ青年をにらみ、いくつもの陰火を連続してはなった。
しかしスズキ青年はうだつの上がらない人生を送っているが、仕事だけはうまく執り行うのである。跳ね返されたその陰火は虚空の闇の中に解け、消えてしまった。もう術がない!
妖魅は死者であったが、また棺の中に閉じ込められることに恐怖をし、後ずさった。お札に効果ありと直感があった。向こうの態勢が崩れたとみたスズキ青年は、さっと妖魅に駆け寄り、お札を額に貼り付けようとすると、最後に隠されていた陰火が現れ、そのお札を燃やしてしまった。
しまった!
不手際を悔いる間もなく、妖魅は虚空を飛翔し退散していった。
後には死者の腐臭と、強烈な疲労感だけが残った。こんなところにも闘争があって、これだけ疲弊しつつも誰も振り返らない。仕方のないこととはいえ、やりきれないものだ。
ぐしゃり! スズキ青年は、マイ・ラケットを地にたたきつけて破壊し、鬱憤(うっぷん)を晴らした。苦渋が喉の奥から沸いたが、生者として箱船に帰らなければならない。これ以上の探索は不可能として、スズキ青年はきびすを返して墳丘を後にした。
なんともいえない一幕であったが、しかしその光景を見届けていた者がいた。川辺でスズキ青年は自殺をするのではないか、と後を付けてきた者がいたのだった。