「汝、海神を欺き、信託を盾にして放蕩三昧のツケをわしに回そうとするのだな。善いかな善いかな。戒めを解いて進ぜよう」

仙人さまは気迫を込めて意気を発すると、バラバラ! と神輿は分解され、その中からスズキ青年が現れ、訴えた。

「翻弄される人生に、とうとう終わりがやって来ました。思い上がったり焦慮したり、軽蔑されたり敬遠されたり、人生の果てしないドラマはいくらでも続くものと覚悟しましたが、仙人さまのご神託に、最後の止(とど)めを刺されます。この中身の軽い頭を垂れ、どうかお裁きを受けとう御座います」

「汝は自身を風に巻き込まれ炎に焼かれる蝶にたとえたが、今度は逆さにしてやろう。気まぐれな人生を袖にする愚か者にふさわしい転生を与えよう。これを罰とするか褒美とするかは汝次第だ」

エイッ!

仙人さまの発した気合いのために、スズキ青年の気は遠くなった。気が凝り固まって生命となり、一夜の宿として肉体に伴われるが、もうスズキ青年の気はすでに月よりも遠く、ハレー彗星の軌道上の重力圏に接近した。

しかし鋼鉄よりも重い業のために、ハレー彗星が太陽に近づいて有機体が燃焼して鬼火のような燐光となっても、スズキ青年の魂にはいままでどおりの自我があった。

 

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