「違う、違う。高校時代や典子のこと思い出しちゃって、つい懐かしくて」

「ふうん。じゃ今言ってた、周りに引かれたっていうのは高校の時の話?」

「日本に来て熊本の高校に入学した頃のことね。日本人の顔なのに英語訛りの日本語だし、英語の発音はネイティブで、どっちで話しても周りがちょっと気を使うっていうか、少し引くみたいなところがあったの。それで、英語を話す時はわざと日本人っぽく発音することがあった」

「へえー、例えば?」

「ミウックと英語風に発音しないで、ミルクって日本語風にしたり、アォトゥァマンだと全然通じないから、ウルトラマンって言ったりしてた。マッダナじゃなくてマクド、これは日本人特有の省略形だけどね」

「省略形はたしかに違うよね。フルーじゃなくてインフル、アップじゃなくてアプリ、フォーンじゃなくてスマホとかね。僕らには思いもよらないところで切って短くするよね。

それに、いちいち母音が入るから違って聞こえてしまう。いつだったか日本で買ったスマホの音声検索で歌詞を調べようとして、曲名を英語でオウンリユーって入れたら青森イオンって出て、日本語ふうにオンリーユーって発音したら、やっと検索してくれた」

同類相哀れむではないが、似たような体験を共有している者どうしの気安さから、ナオミはさらに話題を広げる。

「同じことを言ってるんだけど、受け取とられ方が違うのはよくあるよね。人間もそうなのかなって思うことがある。私はいつも私なんだけど、シチュエーションによって別な目で見られることがある。

アメリカでは日系だし、日本ではアメリカ人で、どっちでもマイノリティ。アメリカでも日本でも完全には受け入れてもらえないのかな、みたいな。知ってる? 日系人はバナナって言われることがあるの」

「どういう意味?」

「黄色い皮をむくと中身は白なんだって。白人べったりの東洋人のことで、日系人は一皮むけばワスプ、とも言うらしい」

ワスプ(WASP)は白人アングロサクソン系プロテスタント教徒のことで、アメリカ社会に大きな影響力を持つとされた白人の中上流層である。

ナオミは少し詳しく説明した。

 

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