「そうですね。今までのようには行かないでしょう。叩き台で良いですよ。それを基に一緒に考えましょう」

翌日、経理部長の佐久が作って専務が手直ししたという資金繰り表を前に、先ず、基礎数字となる売上高を検討することにした。

「ゼロからのスタートですからね」竹之下が呟いた。

「いや、違う。マイナスからのスタートだ」

仙田が、考えが浅いとばかりに打ち消した。

「そうですね。信用は全くなくなってしまったでしょうから。マイナスからのスタートであることは間違いないですね。そのマイナスがどれほどのものか。専務はどれぐらい落ち込むと思いますか」

松葉は改めて仙田に聞いた。

「正直のところ、どれくらいか、残念ながら具体的な数字となると非常に難しいですね」

「そうですね。佐久の数字は今までの数字が基になっているでしょう。現実の数字となるとマイナスのスタートでの数字を出さなければなりませんので難しいですね。得意先の中にはわが社から離れていくところもあるでしょうから」

「そうだと思います。1軒、1軒当たってみる必要がありますね」

「私がお詫びを兼ねてお願いに回ることにしましょう」

「いや、社長に回ってもらっても本音は出てこないでしょう。また、社長にはそんな時間はないでしょう」

「そうですね。しかし、昔からお世話になったところだけでもお詫びに行っておきたいですね」

 

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