車に乗り込むとすぐ、仙田が話し出した。

「社長、免除率のことですけど、弁護士は和議の経験則からきての話ですね。計数的に考えてもらうと、ご理解頂けると思うのですが。債務高が40億でしょう。80%の免除をお願いしたとしますね、すると20%を返済していかなければなりません。

弁済額は8億ということになります。それを10年で弁済するとすれば、毎年8千万円ですよ。所得税をはじめ諸々の経費を考えると毎年1億6千万は利益を出していかなければいけませんよ。とてもできっこないですよ」

「和議では、50%ほどの免除でやっていけたのですかね」

「とてもやっていけなかったでしょう。結局、途中で手を上げ、タダ同然で身売りでしょう」

「そうでしょうね。できそうもない弁済計画を立てても意味のないことですよね。どうして可能なことから進めようとされないのですかね」

「計数的な観念が薄いのではないですか。所詮、弁護士には再生が成功しようが、失敗しようが、あまり関係のないことですよ。弁護士は報酬が入ればそれでOKです。弁護士も商売ですから」

「えらい、専務はクールですね」

「以前の会社で、そんな弁護士を何人も見てきましたから」

「弁護士というのは、弱きを助け強きを挫く、正義の味方ではないのですか」

「社長、甘い、甘い。そんな弁護士は、人権派のごく限られた一握りの人たちだけですよ。みんな金儲けのためにやっているのですから。そうは言っても、今藤先生は良い方の弁護士だとは思います」

「そんなものですか。現実は厳しいですね」

「取り敢えず、私が佐久と一緒に資金繰り表を作ってみましょう。今までのようには行かないと思いますが」