俳句・短歌 歴史・地理 歌集 歴史 2020.09.16 歌集「風音」より三首 歌集 風音 【第7回】 松下 正樹 何気ない日常にある幸せを探しに。 優しい風を運ぶ短歌集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 くうくうと雄のよぶ声に誘かれて 鳴かぬ雌がひたと寄り添ふ たけり鳴く恋のあわれさ池じゅうに 雌雄ひしめきてさざ波 起きる 雌の背なにおしかかる雄の重たさに 浮き沈みつつ蛙は交る
小説 『不確かな真実』 【新連載】 和亭 正彦 都内のマンションの一室で無残な姿で発見された女性の遺体。捜査本部は容疑者と思われる人物の特定を急ぐが… 凄惨な事件であった。新年早々の一月八日、新宿を起点として東京、神奈川を貫く東神電鉄の西城公園駅にほど近い瀟洒なマンションの一室から女性の遺体が発見された。遺体には、鈍器で殴られたような後頭部の陥没と胸部に致命傷になったと思われる数カ所の刺し傷があったが、傷はそれだけではなかった。大きく切り裂かれた腹部からは、まるで腑分けをしたかのように内臓の一部が体外に引きずり出されており、皮膚がめくれ返った首…
小説 『しあわせについて』 【第5回】 杉野 六左衛門 定規で五本の平行線を引き、オタマジャクシを一つ一つ写す。市販の五線紙は高価で、このころは手に入れにくくなっていた。 【前回の記事を読む】戦争の役に立つから、合唱部は存続をゆるされた。―学校生活が戦争に染まり、体育系の部活でさえコートが畑になり休部する中…この時期の合唱部の目標は、六月に行われる演奏会『夕(ゆう)べ』だった。『夕べ』は正式には『たちばなの夕べ』という名前だったが、部員たちは短く『夕べ』と呼んでいた。〝たちばな〞は県女のシンボルで、校章は橘(たちばな)の実をあしらったものだし、校歌にも歌われている…