東京都立広尾病院事件判決は、最高裁判決のみではなく刑事事件3判決(東京地裁判決、東京高裁判決、最高裁判決)を一体として解釈することが重要である。3判決ともに「異状」の判断は客観的な「外表異状」であるとする点は共通している。
東京地裁判決は死亡診断時点が検案時点であり、届出義務の開始時刻であるとした。東京高裁は、死亡診断時点での右腕の異常着色は、じっくり見て確認まではしておらず不十分であるとして、東京地裁判決を破棄し、届出義務の起点は病理解剖時点であるとした。
東京高裁は、争点となった「検案」の意義について「死体の『検案』とは、医師が、死亡した者が診療中の患者であったか否かを問わず、死因を判定するためにその死体の外表を検査すること」と、裁判所としての見解を示している。
最高裁判所は、この東京高裁判決を支持した。重要な判決なので、最高裁判決要旨を次に記載する。最高裁判決は、
「【要旨1】医師法第21条にいう死体の「検案」とは、医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい、当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わない。
【要旨2】死体を検案して異状を認めた医師は、自己がその死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも、医師法第21条の届出義務を負うとすることは、憲法第38条1項に違反しない。」
というものである。
従来、この最高裁判決の【要旨2】部分が注目されてきたことから医療現場では混乱が続いたが、最高裁判決のみではなく、高裁判決と一体として見れば、【要旨1】部分に重点があることが分かる。詳述すれば、【要旨1】前段は、「検案」の定義であり、異状の判断は、「外表異状」によることを示している。これを受けて【要旨1】後段では、検案の対象となる死体は、自己の診療していた患者のものか否かは問わないとした。
【要旨2】は【要旨1】を前提としての考察であり、「合憲限定解釈」という手法で医師法第21条の条文が憲法違反となることを回避したものである。
👉『改訂版 未来の医師を救う 医療事故調査制度とは何か』連載記事一覧はこちら
【イチオシ記事】彼と一緒にお風呂に入って、そしていつもよりも早く寝室へ。それはそれは、いつもとはまた違う愛し方をしてくれて…
【注目記事】(お母さん!助けて!お母さん…)―小学5年生の私と、兄妹のように仲良しだったはずの男の子。部屋で遊んでいたら突然、体を…