それから一カ月後、家族に見守られ、ハルは静かに逝った。

市の斎場。大勢の弔問客が集まって、ハルの葬儀がしめやかに執り行われていた。覚悟してはいたが峯司も別れは辛かった。思い出の品々をお棺に納め、たくさんの野の花も入れて出棺、火葬場に来た。子も孫も、ひ孫も、家族が最後の別れに涙する。

「皆さん、ここが最後のお別れになります。合掌してください」

斎場の担当者が火葬の窯に移動させようと、お棺に手をかけ、いま、動き出そうとしたその瞬間、

「大ばあちゃん!」

天使の大きな声。清んだボーイソプラノが火葬場の天井に響きわたった。

ひ孫の淳がハルのお棺に向かって叫ぶ。

「大ばあちゃん! ありがとうな!」

雷に打たれたように、その場にいたみんなの、胸に響いた。

そして「ありがとう!」の大合唱になった。

ハルは静かに窯に納まり、湖から千の風になって大空に昇っていった。

「シャンシャン、シャンシャン」

峯司には幌馬橇の鈴の音が聞こえた。

 

👉『老楽』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「お父さん、大丈夫だと思うけど、ある程度の覚悟はしておきなさい」――震災後2週間たっても親の迎えがない息子に、先生は現実を…

【注目記事】(お母さん!助けて!お母さん…)―小学5年生の私と、兄妹のように仲良しだったはずの男の子。部屋で遊んでいたら突然、体を…