それから一カ月後、家族に見守られ、ハルは静かに逝った。
市の斎場。大勢の弔問客が集まって、ハルの葬儀がしめやかに執り行われていた。覚悟してはいたが峯司も別れは辛かった。思い出の品々をお棺に納め、たくさんの野の花も入れて出棺、火葬場に来た。子も孫も、ひ孫も、家族が最後の別れに涙する。
「皆さん、ここが最後のお別れになります。合掌してください」
斎場の担当者が火葬の窯に移動させようと、お棺に手をかけ、いま、動き出そうとしたその瞬間、
「大ばあちゃん!」
天使の大きな声。清んだボーイソプラノが火葬場の天井に響きわたった。
ひ孫の淳がハルのお棺に向かって叫ぶ。
「大ばあちゃん! ありがとうな!」
雷に打たれたように、その場にいたみんなの、胸に響いた。
そして「ありがとう!」の大合唱になった。
ハルは静かに窯に納まり、湖から千の風になって大空に昇っていった。
「シャンシャン、シャンシャン」
峯司には幌馬橇の鈴の音が聞こえた。
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