【前回の記事を読む】流産、翌年も、また流産。妊娠した身体で無理に畑仕事を続けた結果だった――それでもハルは花輪を編み、新たな命に祈りを捧げた

老話

湖上の鈴音

その年の冬、ハルは元気な男の子を出産した。清治と名付けられ、めでたい春を呼び寄せていた。二度の流産の末にやっと恵まれた男の子だ。

舅姑のかわいがりようは異常で、甘やかすだけ甘やかした。清治はすくすく育ったが、親が厳しくすると祖父母に泣いて逃げていく。病気がないのが何よりと多少のわがままも許してしまった。

清治を産んだ後は次々と子を授かり、年子で女の子を産んだ。一気に三人兄妹だ。 村にやっと保育所が開設され、三人を預けて働けた。

清治は最初集団生活になじめずメソメソしていたが、半年もするとすっかり慣れ、保育所に行くのを楽しみ始めた。

ハルは過保護の祖父母から清治を離すことができ、ほっとしていた。そんな矢先、舅が倒れ、帰らぬ人となった。まだ七十歳前だった。

仲の良い老夫婦だったから姑は落ち込み、一段と老け込んでしまった。近所の人が心配して顔を見せてくれる。ありがたいことだった。

なぜかハルの周りにはいつも人が集まってきていた。取り立ててお付き合いを広げているわけではない。ただ、聞き上手で他人の悪口は決して言わない。

でもここぞというときにはじっくり考えて、はっきり言う。そんなところが頼りにされるゆえんだろうか。

草花の種が岩の隙間に落ち、わずかの土にもかかわらず、けなげに芽を出す。与えられた場所で逞しく根を張り、そして美しい花を咲かす。どんな花畑に咲く花よりも美しくかぐわしい。どんなところに置かれても、懸命に咲きなさい。