畑起こしの機械のプラウは仲間から借りてきたもの。自分の家のものは修理に出さないと使えない。
トラクターを買おうという話を進めているときに、いまさら修理代はもったいないよと近所の農家が貸してくれた。でも明日には返さなければならない。
やむなく、ハルが老馬で畑起こしをしようと始めたとき、峯司が冴えない顔で出てきた。
「俺がやるよ」
「大丈夫? 辛そうだけど」
大仰に頷くと小一時間、峯司は大汗をかきながら、やれやれもう少しで起こし終わるところまで頑張った。
しかしそのとき、突然、土煙を上げながら走ってきたダンプカーが派手にクラクションを鳴らした。それに老馬は驚いてしまった。
立ち上がって畑から足を踏み外し、崖をプラウごと馬が落ちていく。畑から十メートル先は掘割の崖で、その下に道路が走っていた。
峯司も不意を突かれ、避ける間もなく引きずられて顔から転倒し、五メートル下の道路の側溝まで落ちた。トラックの運転手の知らせで渉が救急車を呼んだ。
峯司は内臓破裂と複雑骨折で重体だ。当面集中治療室で容態が安定するのを待つことになった。一緒に落ちた、長年働いてくれた老馬も骨折をして、結果殺処分せざるを得なかった。
近所の人や親戚の応援をもらい、何とか畑仕事は追いついたが、峯司は一カ月入院し、自宅で二カ月は養生となった。