ハルに元気がないので、温泉には泊まらず早めに切り上げ、帰りは看護師の長女・ミユキが同行してくれた。温泉から帰ると、毎日のように顔を見せ夕飯を一緒に食べていくひ孫たちが二人の帰りを待っていた。ハルがソファに腰かけると男の子の淳がハルめがけて飛び込んでくる。ハルは三年前に心臓の手術を受けていた。峯司が慌てて中に入り受け止める。
「ばあば、お土産は?」
「温泉饅頭があるよ」
「アイスのほうがいいなあ」
「スイカが冷えているから、スイカにしたら」
「いいよー」
ハルはひ孫たちが食べ残した饅頭やスイカを丁寧に冷蔵庫にしまう。
「もったいない」「いたわしい」がハルの口癖。何でも一度に捨てることはせず、何かに使えないか試してみるのだ。ハルが「いたわしい」と、肉体労働に鍛えられた手の中にある物を見ると、ほかの人にはない深い愛情がこもっているように感じるから不思議だった。ハルの「いたわしい」はもったいないのか、愛おしいのか、その両方なのか、ハル独特の言葉だった。
あらかた用事が済むと、楽しみにしていたパッチワークの作業も手がつかず、ハルは布団に入った。峯司とミユキは心配顔で見守った。
「余命宣告から半年過ぎた。頑張れる」
峯司は内心諦め切れずに期待を抱く。本人には伏せていたが、ハルは末期のがんだった。高齢で手術には耐えられないし、全身に転移していた。見舞客が次々顔を見せる。ハルは元気を装っているが、客が帰ると
「こわい(疲れた)寝るわ」
とすぐ横になった。