第一章 青天霹靂 あと377日

二〇一五年

十二月十三日(日)

その晩のことである……。

私の部屋に入って来た母が言った。「親というものはね、子供のためだったら鬼にも蛇にもなるんだよ。我が子を助けない親はいないんだから……。でもね、お母さんが出来るのはここまで。あとはお前の問題だよ。だから、明日からは愚痴も泣き言も口にしないこと……」

翌日、登校するなり正が因縁をつけてきた。

「子供の喧嘩に親が出てくるなんて汚ねぇだろう……」と、私の肩を殴った。

私はすっくと立ち、これまでの仕返しとばかりに正の左頬を力まかせにやった。

人を拳で殴るのは、この時が生まれて初めての事である。

(私の父は無茶苦茶な人ではあったが、母にも子供にも手をあげるという事のない人で、それが因して、私も直接的な暴力を否定していた。)

これまで、正や海原の命令で手を出してくる小物たちには我慢が出来たが、今日ばかりは……と、派手な殴り合いとなった。

そこへ、担任が入ってきて騒ぎは一旦おさまった。

さらに、その翌日。今度は海原がまた正と同じ理由で私を小突いてきた。

いいかげん、同じ事の繰り返しが面倒で無視していると、「おい新堀、お前もやれよ……」と海原が正に言った。

すると正は、椅子に座ったまま「俺やんねぇ……、もう飽きたから」と、頭に後ろ手を回し反り返った。

それ以後、どうしてだか、正と私は大の仲良しになり、放課後も日曜も一緒に遊び、親子ぐるみで旅行に行くほどの間柄となった。

けれど、その後、中学ではクラスが別になった事もあるが、正はヤンチャな連中と付き合うようになり、いつしか関係は薄くなっていった。

しかし、母親どうしの仲はずっと続いていたようで、相変わらず一緒に旅行へ行ったり、民謡や日舞を習ったりと、母のアルバムにはいつも新堀さんの顔があった。