【前回の記事を読む】「美味しい、食べれたわ」――飲み込む力が弱いので、食べられるか心配だった私にオーナーが出してくれたのは…

としゑさんの喫茶店と私

帰った次の日には、トマトの2階の手すりにハワイで買って来た、ハイビスカス柄の大きな赤いパレオ(長方形の布)が飾られてあった。翌年には、ハワイ島に一緒に行った東京の先生と仲間たちが遊びに来て、トマトでランチを食べた。

その年、東京の先生ご夫婦と私達夫婦で、ハワイ島最南端のグリーンサンドビーチに行った。見渡す限り、モスグリーンの世界に誕生石のペリドットが砕けた砂浜を歩いて、寝転んで海に入った。私はその時、生き返った実感を感じた。

としゑさんは、私がキャベツの千切りがよく喉に引っ掛けて、咽たのを気にしてくれたのか、私の御膳だけサニーレタスになっていて、私だけ魚料理が多かった。お茶の湯呑が2つあって、コーヒーも一緒に出ていた。唾が出にくいので、お水を何回も頂いていたからだ。食べながら話をすると咽るので、話しかけないで黙食をさせてくれる、何気ない心遣いが心地良かった。

相づちするだけで気管が開くのか、咽ることが度々あった。咽ることに慣れてくると、咽ると思った時、口の中の物はすべて出すということが分かった。入院中、誤嚥性肺炎で大変だったからだ。

どうしても、話さなければと思う時は、口の中を空っぽにしてからにしている。

この日も1人で来た。夫婦連れらしいお客様がいた。ご主人が奥さんに食べさせていた。手があまり動かないらしい。なんか悲しかった。

奥さんは一生懸命食べている。あの人も私と一緒だ。食べないと生きられないことを知ってる。としゑさんが

「みんな、頑張らないとね」

と、そおっと私に言った時、私はうなずいた。