【前回の記事を読む】来る日も来る日も通った喫茶が、味の記憶を蘇らせてくれた。咽頭癌の手術の後で、食べる練習をしていると知った店主は...
としゑさんの喫茶店と私
電話がりりりーんとなった。
「ハイ、1キロお願いしまーす」
コーヒー豆の注文をしているのも分かるようになる。
としゑさんの後輩の吉田さんに「ハイ、どうぞ。豚肉のあんかけ風からあげ、初めて作ってみたの」
「美味しいわ。どうやって作るの」
「ほんと嬉しい。良かった。肉を醤油とみりんとにんにくとそれから」
「ふーん、トマトで食べるからいいわ」
「教えてあげるから作って」と楽しそうに会話が弾んでいる。
また、2階のお客様から「コーヒーまだかー」「ごめーん。今持っていきまーす」
りりりーんー。
「トマトでーす。ランチは1日10食なんです。もう、ないんです。すみません。これから、予約お願いしまーす」
「美味しかったわ。ありがとう」
「こちらこそありがとうございました」と、としゑさんは言う。
次の日、雪が積もっていた。としゑさんが駐車場でスコップを持って一生懸命雪掻きしている。
「ごめん、ごめん。今開けるから待ってて」