翔太の横にはマヨネーズと調味料の塩コショウが置かれている。二匹と一人、中皿に取り分け用意が整った。

チワワのガッキー君の小さなお口は、お皿の上の鶏の胸肉に向かった。座面の高い椅子に座り、前足二本をテーブルの縁に置くと後ろ足を伸ばした。顔がスープの上のお肉に重なった。

噛み切ろうと奥歯にはさんだ瞬間「カッ。ゴホゴホ」とむせ出した。

匂いにつられて少し急いでいたため、野菜から染み出した水分が鼻腔を通り喉の奥に吸い込まれてしまった。

誰もいない宙に向けて何度もゴホゴホと咳をしている。

「ガッキー。マナー違反だよ」

左右の手にフォークとナイフを持ち、冷静な態度で鶏肉を一口サイズに切り分けている柴犬のグッキー君は、横の椅子から窘(たしな)めた。

「僕らはドッグだ。鼻が口の直ぐ上にあるから、水分の多い料理の時には注意が必要だ」

フォークを左手に持ったグッキー君はカットされた胸肉を奥歯に押し込んでいる。数回もぐもぐしゴクリと呑み込んだ。

「美味しい。翔太ご主人の作る料理には愛情が込められている。脂の少ない胸肉と柔らかな茹で立ての大根。レタスは新鮮でパリパリして食感は最高」

そう言ってグッキー君は翔太の横にあるマヨネーズをつかみ取ると、鶏肉の上にたっぷりと敷きつめた。

「ありがとう。そう言ってもらえると作り甲斐があるよ」

キッチンに近い椅子に着席中の翔太はフッと微笑んだ。マヨネーズはかけすぎだよと言いたいが、それぞれの味覚を優先している。

 

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