【前回記事を読む】海面に浮かぶ木片を発見し、それに引き寄せられる見習い宮大工。バラバラになった木片を集め木箱にしようとするが… 

1章 不思議な木箱

宮大工の見習いはこの木箱にあったつなぎ方を考えた。

同じサイズの板が二枚ずつ三セット。上下と左右の計六枚の板がある。二枚の木片を創一は両手に持ち、ミリ単位に上下させた。

─どんなつなぎ方が良いのだろうか。

そう思いゆっくりと板を移動させた。

何度か繰り返していると、ググッと痺れるような強い振動が指先に伝わり、両手に持っていた二枚の板は胡座の姿勢の膝の上にスッと落ちた。創一はジンジンしている両手を見つめ浅い呼吸をした。

いったい何が起きたのか。目を下に向けるとそこには一辺が密着してL型になった木片があった。拾い上げて、端部を持ち上下左右に引っ張ってみたがびくともしない。

強力な力で結びついていた。どうして密着したのか創一には分からなかったが、二枚の板はしっかりと結びついていた。次に、横に置いていたもう一枚を手に取ると、密着した二枚の縁に合わせ少しずつ移動させた。

ビビッと強い振動が再び手に残ると、その板は密着していた。創一は上下左右に場所を変えて強い力で引っ張ってみたが、びくともしない。

三枚の板がピタリとはまった。なぜ密着したのか、しかも強力な力で……。創一は胸騒ぎを抑えることができなかった。目の前の出来事が信じられなかった。

まるで、その場所が木片の定位置であるかのようにしっかり結びついている。意思を持ち固く結ばれている。赤い竜の身体は艶のある曲線でつながった。木箱を作る手助けをしているに過ぎないと創一は思った。

─神秘的で崇高な木箱をあるべき姿に戻したい。

創一は呼吸を整え、四枚目の木片を手に持ち竜のラインにすり合わせた。すると、ビビビッと強い振動を発して密着した。

六枚の板が強固に結びつき、木箱が完成した。

見事な色彩と細部にわたり丁寧に彫り込まれた木箱の中の二匹の竜は、今にも動き出しそうに見えた。振動が手に残り創一の両手はジンジン痺れていたが、心は木箱に釘付けになっていた。

こんなに素晴らしい彫り物をいつの日か俺も作りたい、繊細で大胆なこの技法を習得したいという気持ちでいっぱいになった。

赤い竜の口がわずかに開き、刃物のような牙がきらりと光った。木面の半分ほどは焼け焦げていた。頭の一部分と胸の周辺は炭になって欠け落ち、胴体から下部に続く手足も所々が欠けている。

しかし、背筋から尾の先端までは綺麗なグラデーションの曲線でウロコがきらきらと輝いている。生きているのではないかと思えるような見事な色調だ。

創一はこの木面の修復を何としても成し遂げなくてはならないと考えた。宮大工のはしくれとして使命感に駆られていた。