2章 共同生活者たち
木造アパートの一階。小さなテーブルには椅子が四脚。家族全員で食べる夕食は一日の大切な時間だ。大型の壁掛けタイプの薄型テレビのスイッチを入れた。夕方の情報番組のアナウンサーの清純な声が聞こえている。
早番勤務、定時の午後六時に退社した安田翔太はキッチンに立って料理中。近くのスーパーで購入した食材、鶏の胸肉が入った透明のプラスチックバックを眺め、熱の通り具合を見ている。
「そろそろ良さそうだよ」
そう言うと、大きな瞳で二匹の共同生活者の顔を見た。
チワワのガッキー君と柴犬のグッキー君は「良い匂い。お腹が減った」と、二重唱。後ろ足をたたみ、お尻を床に着けたグッキー君の背筋は一直線に伸び、尻尾が大きく揺れている。大きく見開いた瞳が大好きな食べ物に向かっている。舌が顎の周りを行ったり来たり何度も往復中、よだれがポツンと落下した。
──美味しそう。
ガッキー君は部屋に充満している甘い匂いに気持ちが高ぶり、嬉しくてどうしようもないようで、宙返りを何度も繰り返している。
「待ちきれないよ。早くして!」
「あとちょっとだよ」
まな板の真ん中に肉の塊を置き、翔太はチラリと横目で二匹を観察した。体内にワクワク感が充満した。
ブロッコリーと大根の茹で野菜とスープを添えて夕食が完成した。
ダイニングテーブルの真ん中にはメインディッシュが大皿に盛り付けられて存在感を放っている。
ジェット機が滑走路をパワフルに加速している。離陸の瞬間だ。二匹の共同生活者はキッチン横から加速し、テーブル脇の椅子に向かってジャンプ。前足を胸に包み、力強く蹴り上げた後ろ足は、くの字に引き戻されて宙を一回転。
二匹はスポリと座席に着いた。
シンクロした二匹の動作は、ストップモーションの動画に見えた。
ピタリと息の合った二匹の身のこなしに、改めて翔太の胸に熱いものが込み上げた。