【前回記事を読む】喋る2匹の犬との共同生活!? マヨネーズがたっぷりと乗っかった鳥胸肉をナイフとフォークで食べる犬って何者?

2章 共同生活者たち

ガッキー君の趣味は睡眠だ。朝食と散歩が終わると眠り、昼の軽食の後も直ぐに目を閉じる。午後の外出時に声を掛けると機嫌が良いと付き合ってくれるのだが、機嫌が悪かったり寝不足気味だったりすると「おいらは寝ている」と断りの決意表明もある。我が道を行くタイプだ。

ふくよかなガッキー君に散歩させようとしても翔太の思い通りにはならない。しかし、ガッキー君の寝姿は何度見ても見飽きることはないと翔太は断言できる。

かわいい寝顔には人を引き付けて止まない力がある。その力は強力で影響範囲に入ってしまうと催眠術にかけられ、自分の意志ではとても抜け出せない。

言ってみれば、魔法によって体が動き出し、傍らに吸い寄せられてしまう。鼻と鼻が触れ合うほどの距離に誘導されると、魅力溢れる閉じた瞳が前に見える。息を潜めじっと見つめる。

愛らしい寝顔は翔太の持つ少しの悩みをすべて吸い上げ、遠くの場所に追いやってくれる。哀愁に満ち溢れるその寝顔はまさに神聖で不可侵の領域だ。

“キュン・キュン”とか“ブイー・ブイー”など多彩な寝息の音と、“キン・キン”とか“ピオ・ピオ”など夢の中の楽しそうな寝言。それらは御言葉となって翔太を魅了する。

決して褒められた趣味ではないと自覚しているし、もし誰かに見られでもしたら、きっと顔から火が出る思いになるに違いない。しかし翔太にとって大切な価値ある時間なのだ。

かたや、グッキー君の習わしはお祈り。厚手のフリースを敷きその上にお座りして、頭部に白のハチマキを巻き、両手を合わせるのだ。自身の都合に合わせ、暇な時にお祈りをしている。

一階のアパートの居間のサッシを開けて、サラサラと流れる小川の水の音を聞きながら必死に手を合わせている。

それを見ている翔太は、くだらんと言って「やめたら」と説得しようとしたのだが、グッキー君の決意は固く休日の習慣になっている。暑い夏でも寒い冬でも、周りに気遣いなくサッシを開放し手を合わせている。

お祈りをする理由……。

翔太らが住んでいた星は、地球に似ているが動物に特別な能力が与えられた星だ。グッキー君は小型宇宙船に変身するための〝長文の呪文〟を必死に思い出そうとしているのだ。故郷の星に帰るために思い出そうとしている。しかし、二十有余年経過した今でも成果はない。

その昔……宇宙観光中に青く輝く綺麗な星を見つけた。その星が発する異彩を放つ神秘的なオーラに、二匹と一人の心はジンジンと痺れてしまった。

──何という美しさだろう。

地上すれすれに飛行していた翔太とガッキー君を乗せたグッキー君の小型宇宙船はリンゴの木にぶつかってしまい、枝に絡まれて動けなくなってしまった。その後、グッキー君は犬に戻ったがリンゴの木にぶつかった衝撃により、小型宇宙船に変わるための“長文の呪文”を忘れてしまった。

しかし、その後の二匹と一人の生活にはなんら不自由はない。当初はどのような敵が潜んでいるやもしれぬと恐る恐る生活していたが、慣れてみると、この地球と呼ばれる星の生活は二匹と一人にとって楽しく快適で何も不自由がない。このため宇宙船に乗って故郷の星に帰還する必要はないと強く思うようになった。今の生活が何より楽しいのだ。