「直観としかいいようがありません。今、貴殿のお名前を教えていただくことで、私の人生が大きく変化する予感がいたします」
「ほう」
男はそういって薄い微笑を浮かべた。
「おう、火が消えそうだ」
男はそういって焚火に薪をくべた。炎が赤々と燃え上がり、静寂を打ち破るかのように爆ぜた。
「あなたは心に灯していた火が消えそうになり、ふたたび燃え上がらせるための契機を探していた。そして今、この沙門が燻っていた心に火をつける薪になるかもしれないと、そう思ったわけですか」
「あなたを利しているようですが、つまりはそういうことかもしれません」真魚は恥じらいながら答えた。「どうかお名前を教えていただきたく存じます」
「面白い」男の視線が真魚をまっすぐに捉えた。「利他は仏道に欠かせぬ務め。お答えしましょう。私は勤操(ごんそう)と申します」
真魚は大学の講義で勤操という名を耳にしたことがあった。記憶がたしかならば、南都七大寺のひとつである寺に入り、その聡明さから将来を嘱望されている僧であった。
「噂は耳にしております。今宵は山林修行をされていたのですか」
「寺に籠っていると気が詰まることがありましてな。時折、こうして山に入るのです」
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