「直観としかいいようがありません。今、貴殿のお名前を教えていただくことで、私の人生が大きく変化する予感がいたします」

「ほう」

男はそういって薄い微笑を浮かべた。

「おう、火が消えそうだ」

男はそういって焚火に薪をくべた。炎が赤々と燃え上がり、静寂を打ち破るかのように爆ぜた。

「あなたは心に灯していた火が消えそうになり、ふたたび燃え上がらせるための契機を探していた。そして今、この沙門が燻っていた心に火をつける薪になるかもしれないと、そう思ったわけですか」

「あなたを利しているようですが、つまりはそういうことかもしれません」真魚は恥じらいながら答えた。「どうかお名前を教えていただきたく存じます」

「面白い」男の視線が真魚をまっすぐに捉えた。「利他は仏道に欠かせぬ務め。お答えしましょう。私は勤操(ごんそう)と申します」

真魚は大学の講義で勤操という名を耳にしたことがあった。記憶がたしかならば、南都七大寺のひとつである寺に入り、その聡明さから将来を嘱望されている僧であった。

「噂は耳にしております。今宵は山林修行をされていたのですか」

「寺に籠っていると気が詰まることがありましてな。時折、こうして山に入るのです」

 

👉『天部の戦い』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「大声を張り上げたって誰も来ない」両手を捕まれ、無理やり触らせられ…。ことが終わると、涙を流しながら夢中で手を洗い続けた

【注目記事】火だるまになった先生は僕の名前を叫んでいた――まさか僕の母親が自殺したことと今回の事件、何か繋がりが…?