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2次会のテーブル席では女性たちが腕組みをしている。イケちゃんからの問いかけに、ようやく松原の口が開いた。
「どうして池江さんなのかという理由ですよね……その前に話しておかなくてはならないことがあります。
実は1ヶ月くらい前ですが、松本バスターミナルを利用した時、偶然にも池江さんを見かけたんです。サービスカウンターにいる係員の人を見て『かわいいな!』って思ったんです。少し近づいてみると名札が読めて驚きました!
高校時代に憧れだった池江さんだと気づき、とても感情が高ぶったのです。お仕事中なので声をかけられず立ち去りましたが、どうしても話がしたくなり、3年B組だった長谷部に相談しました。その時に考えたのが同窓会の計画でした。池江さんとは同じクラスではなかったので、クラス会ではなくて同窓会にしようと決めたんです。つまり今回の同窓会は、僕が池江さんに会いたいという理由で開かれたんです!」
松原の説明を聞いてイケちゃんたちは唖然(あぜん)としている。杏子がイケちゃんの代わりに言った。
「抽選でナギが選ばれたのも、その時に松原君が大声で言ったのも、あれって全部が計画的だったってことなの?」
「はい。その通りです。この場所も池江さんと話をするために用意しました!」
「そうなの? それじゃ、私と杏子さんはお邪魔ってことなのかしら……」
タマちゃんが変なことを言うと、ようやくイケちゃんがしゃべり出す。
「あのう、何て言えば良いのかな……リベンジってさ、本気なの?」
その言葉を聞いて、松原は真顔でハッキリとこたえた。
「今日、あなたに会えて確信しました。高校時代よりも今の池江さんが何倍も魅力的です。正直なところ、友達からなんて思っていません。すぐにでもカレシになりたいですが、まずはデートしてください。よろしくお願いします!」
今度は手を差し出す動作はせず、じっとイケちゃんを見つめている。
目の前の光景を見ながら、杏子とタマちゃんはシャンパンを飲んでいる。イケちゃんが返答しないので、杏子は思わずつぶやいてしまう。
「イケメンではないけど、背は高いしスタイルも良し。まあまあなんだけどね……」
すると、タマちゃんもつられてつぶやく。
「ナギちゃんに会いたくて頑張ったのね。愛されるって幸せよね……」
わざとらしい二人の言葉を聞いて、イケちゃんは追い詰められている気分だ。