仙一は、その女性を見るなり言葉が出なくなり、両手で抱えていた風呂敷包みの持つところが夏の暑い日でもないのに、瞬時に汗でじっとりと手に絡んでくるのを感じた。
その人は、糊の利いた白地に薄灰色の矢絣(やがすり)の浴衣を着、細畝の博多帯をキリッと結んだ出で立ちで玄関に立った。
風呂から上がって間がないのか、浮かした襟の頸からは少し汗が滲み、白地の浴衣地が汗で湿って、白い肌が浮き出て見えた。
仙一の心臓が早鐘を打つ。仙一は、まるで見てはいけない物を見た時の様に目を下に逸らしたが、今度は帯下(おびした)の生地の重ならないところに微かに白い肌の透けるのが目に入ってきた。
仙一は、そこから目を逸らし再びその女の顔へ視線を戻した。
「あのう、紹山ですが専務の言い付けで日本酒を届けに上がりました」幸い、用意しておいた言葉が考えるより前に口に出る。
「ああ、専務の藤田さんからね、お使いご苦労様」
「ちょっと上がってお茶でも飲んでってくださいな」
女は如才なく言い、上の座敷へ仙一を招いた。
いつもならこんな時、仙一は〝いえ仕事中ですから〟と断るのだが、この時は、釣られる様に上擦った口調で「そうですか」と。
まるで抵抗の出来ない何かの力が働いているかの様に、女の言われるまま、仕事用の汚れた古いズック靴を脱ぎ捨て、後も振り返らずに玄関から付いて上がった。
素肌に白い矢絣の浴衣をまとう肉付きの良い尻が、手が届く距離で誘う様に動く。