土地の権利書(けんりしょ)

実は私には、お金を下さいと夫に言えなかった理由が他にも有った。

それは、サラリーマン時代、狭(せま)い土地ではあるが、夫が敢(あ)えて私名義(わたしめいぎ)で購入(こうにゅう)してくれた関東(かんとう)の土地の権利書(けんりしょ)を、夫に内緒(ないしょ)で大阪にこっそり持っていく算段(さんだん)にしていたからだ。

もうすぐ夫を裏切(うらぎ)ろうとしている裏切り者の私が、チケット以外にお金も欲しいなんて言えるわけがない。

お姉様との夜毎(よごと)の電話では、毎回ご住職様の不思議な力の話題で盛り上がっていたのだが、ほんの時折(ときおり)、我が家の経済状態(けいざいじょうたい)や資産(しさん)の有無(うむ)の質問も有った。

私名義の関東の土地の話を伝えると、自分名義の権利書ならば、一応(いちおう)、大阪に持って来た方がよいのではないかとのアドバイスを受けた。

私自身(じしん)も、あの土地がほんの少しでも慈善事業の役に立つのなら御(おん)の字(じ)だと思ったのだが、しかし、あの暗雲立(あんうんた)ち込める状態の中で、権利書持参(けんりしょじさん)で大阪に行きたいとはさすがに言えなかったのだ。こっそり持って行くしかなかった。

そして、お姉様にはありのままを正直(しょうじき)に言った。権利書は持って行くがお金は小学生の遠足並(えんそくな)み以下だと。

お姉様は大阪・九州間の夜毎(よごと)の電話代も苦にせず、ご住職様と共に慈善事業を立ち上げようとしているだけあり、経済的にとても余裕(よゆう)が有るようで、しばらくは私の大阪での生活の面倒(めんどう)を見てくれることになった。その上、住いにも余裕(よゆう)が有るらしく、お姉様の自宅の一室(いっしつ)を借(か)りることが決まった。

お姉様の自宅に早く行ってみたいと思った。

二~三泊用の小さなスーツケースの内ポケットに、私名義の土地の権利書をこっそり隠(かく)し入れ、押し入れの引き出しに入れていた神名を書いた小さな紙と四~五枚の千円札(せんえんさつ)と少々の小銭(こぜに)を財布(さいふ)に入れ、たったそれだけで、それなのに私は、意気揚々(いきようよう)と九州を後にしたのだった。

これまでの人生で一度も考えたことのない慈善事業(じぜんじぎょう)という未知(みち)の世界の仕事に携(たずさ)わる自分なりの心構(こころがま)えや、電話代を気にすることなく、いつでもどこでも存分(ぞんぶん)にお姉様と話ができ、更には、ご住職様に不思議な力の秘密を直接質問させてもらえる機会も沢山有ることなどを思い、飛行機の中での私の頭の中は満(まん)ぱん状態だった。

 

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