働きたい女
私たちはひとしきり不倫やら恋やら愛やらについて語り合った後、議題を仕事に変えた。
仕事について語る時、絶対に私たちはテレビ局での経験を軸に考える傾向がある。
「まあ、どんな理不尽にさらされても、あそこよりはマシですね。生きられます」
米ちゃんの言葉に私は深くうなずいた。結局毎回私たちはこの結論にしか達しない。テレビ局での仕事ほど虚しいものをまだ私たちは知らない。
私たちは当時、日に何本も取材に行き、時間に追われながら原稿を書いていた。人手不足の著しい小さな組織=ローカルテレビ局では、一人の記者が行う取材にカテゴリー分けなど存在しない。
例えばある一日、朝から田んぼに入り、泥んこになってキャッキャと田植えをする子どもたちにマイクを向ける。
炎天下、肌はじりじりと焼かれながら、それでも日陰に入ることなど許されず、子どもたちの動向を見守る。
子どもたちを表現するにはどんな言葉がふさわしいだろうかと考える。「楽しそうに」「無邪気に」「意気揚々と」「汗をにじませながら」「物珍しそうに」「慎重に」⋯⋯どの言葉がもっとも正確であるのか考える。
誰も答え合わせのしようがないのだから、まとまりが良く自分にとって都合の良い言葉でもいいはずなのに、それを許せなかった。
この場面を切り取ってニュースにして、そうして社会に発信するのは私ただ一人なのだから、そうであるのならば私には寸分も違わず正しいありのままの情報を言葉にして伝える責務があるのだと、意固地なまでに思い込んでいた。それがプライドだった。
次回更新は10月13日(月)、19時の予定です。
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