「最後に会ったのって、いつでしたっけ?」
「えっと」
彼女は一瞬天を仰いだものの、たいして苦もなく思い出してみせた。
「神野さんが彼氏と別れた直後でしょう? ほら、歴代彼氏の中で断トツいい男だった……掛橋くんだ」
改めて継ぎ接ぎだらけの記憶に総検索を掛ける。
考えてみれば、確かに誰かいたはずなのだ。悪魔と出会う前、藤島希枝を担当に付ける前、まともな恋人を作る前から、私のおしゃべりを受け止めてくれた存在が。
「意地張ってないで結婚しちゃえば良かったんじゃないの? そうすれば妹に先越されることもなかったのに」
「……タケナガさん?」
「うん?」
竹永裕菜(たけながゆうな)は、私の親友だった。
けれどもその人となりは全て小説に落とし込んでしまったようで、名前以外に引き出せそうな情報は何一つ残っていない。きれいさっぱり忘れられているなど思いもよらないだろう彼女は、またしても返事に困る問いを投げてきた。
「もしかして神野さん、新しい男ができた?」
「へ?」
「私に愚痴らずとも小説が書けてるってことは、ちゃんと話を聞いてくれる彼氏がいるんじゃないかなって」
「それは……」
真っ先に悪魔の顔が浮かび、次いで掛橋さんを思い出した。彼にも彼女にも失礼だと思いながらも、どう取り繕うか必死に考えている。
「あは、余計なお世話だったか」
「え?」
焦る私をよそに、目の前の彼女は何の屈託もなく笑っていた。
「神野さんとはお互いに言いたいことだけぶちまけ合ってる感じだもんね。いまだに呼び方も『神野さん』だし、他の同級生から見たらウチらの関係マジで謎だろうな」
馴れ馴れしく話しかけながらも踏み込みすぎずに立ち止まる。昔からねじくれていたらしい私が彼女に心を許した理由が、なんとなく分かる気がする。
けれども今、その笑顔は眩しすぎた。
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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