でもそこはさすがの子供同士、言葉が通じなくてもほどなく一緒に遊び始める。
まずは館内探検。僕が住んでいる318号室を最初に紹介した。部屋の中を見るのは初めてなようで、面白そうに見まわしていたが、何せ小さな部屋、ひと通り眺めるとすぐに部屋を出た。すると、ついてこいとガブが手招きする。
318号室のある3階には、気がつかなかったが電話交換室があった。人目に付きにくい、狭小の通路を入ると突き当りにドアがあって、ガブはドアに耳をあてて中の音を聞いている。“お前もやってみろ”というようなジェスチャーするので、僕もやってみた。
すると、「お電話ありがございます。ホテルアジア会館でございます」、という声が聞こえてきた。驚いて、びっくりした顔を彼にすると、彼は誇らしげに笑いながらサムアップをする。
続いて向かったのは地下1階。僕は降りたことがない。廊下に出てすぐに「ボイラー室」と書いてあるドアがあった。「関係者以外立ち入り禁止」とも。彼はそのドアを開けて中に入る。ドアを音がしないように閉め、ドキドキしながらガブのあとについていく。大きな機械と物音、蒸気。怖かったけど映画の冒険シーンのようでワクワクする。
暫くすると「ガタン!」と、大きな物音と人の気配がして、驚いて二人とも踵を返して走って入口に戻る。後ろから「こらー!」と怒鳴り声が聞こえたが、振り返らず一目散に1階へかけ上がった。1階のドアを閉めて互いに顔を見合わせると、一瞬間をおいて、爆笑した。やっちゃいけないことをしでかした楽しい冒険だったのだ。
お礼に僕は、駐車場の「壁打ちテニス」の壁を紹介した。
テニスのラケットを振るしぐさを見てガブは「わかったよ」という表情をしてうなずいている。続けて「マイコーチ」と言って、テニスを教えてくれる客人が住む隣家の窓を、「フレンド」と言って指さしたが、うなずいてくれはしたが理解したかどうかはわからない。いずれにしても僕のネタのほうがだいぶ地味である。