「実はそうなんだよ。その権藤の親分が、今町港の廻送業仲間に加えろと迫ってきているんだ。魂胆は上前(うわまえ)金が目的だろうことは分かっているけど、町衆たちはもちろん大反対さ。何度も断っているんだけど、相手もただでは黙っていない連中だからね。何事もなきゃいいんだけど」

「せっかくの祭りの前だってのになあ……」

そこに、赤毛のトラ模様の猫が一匹、土間から入ってきた。

「ニャア~」

しっぽを立てて猫撫で声で鳴き、さくらの足元にからみついた。

すると、いままで寝ていた濡れ鴉の男が「ガバァ」と起き上がった。

明らかに、ひどくおびえた様子だった。

「猫! ……。お裕(ゆう)、お裕はどこだ?」

勘治とお遥は振り返って男をみた。

「おめえ、起きてたのか。かなりの手傷だったが大丈夫か。でも猫って、そんな珍しいもんでもないだろうよ。そんなに猫が珍しいか? それにお裕って誰だよ。おめえのコレかい?」

勘治は猫に異常に強い反応を示した男に不思議さを感じたと同時に、それよりも、あれだけ深手を負ったにもかかわらず、平気な表情をしている男をまじまじとみた。

「……」