フローを回すボタンをクリックするまでに、何人の方に何回の説明が必要だったかは、思い出したくもありません。多くの関係者、意思決定者と日程を調整し、資料の一言一句を説明し何度も更新しながら合意に至り、ようやく承認フローを回し始め、何度も何度も承認の進み具合をじっと見つめる。
承認を得られたときは歓喜していたものです。
当然、この承認フローを重く感じたことは、一度や二度ではありません。ただ、他人のお金を、しかも額の小さくないお金を使うためのプロセスだと考えれば、合点がいきます。
大企業の経営層は非常に大きな裁量を持つ人として従業員と対峙する一方で、合理的な運用者として本当の意思決定者であるお金の持ち主たちと対峙しているのです。
経営層は絶えない成長が求められているため、経営層が率先して大胆な新しい事業創りに励む方針を打ち出すケースが多くあります。
ただし、その新しい事業は、本当の意思決定者たるお金の持ち主に説明ができ納得してもらえる、確実なリターンが保証されているようなものであることが前提になっているのです。
非オーナー経営者とは、多くの知人から「増やして」という一言とともに多くのお金を預けられている立場を指します。増やしてほしいと言われているわけだから、リスクは認識してもらっています。
とはいえ、良識ある者ならば、慎重に運用せざるを得ないでしょう。さもないと、自分が公に責められる事態に発展しかねないからです。
ひと昔前に流行った「会社は誰のものか」という議論には興味がありませんが、会社のお金は誰のものかという問いであれば、株主名簿を見ればわかります。そこに記載された一人一人のお金です。
この事実に、これ以上の論点はないでしょう。大企業の方々が持っているすべての予算は、あくまで他人のお金で、大企業の事業計画とは、他人のお金の運用計画になります。この事実も共有し、さらに話を進めていきましょう。