はじめに

みなさんがご存じのように、長い期間にわたって日本の経済成長が鈍化し、多くの大企業が成長戦略として、積極的に新たな事業創造に挑むようになりました。ただし、ほとんどが上手くいっていません。こういった状況を受け、巷では「柔軟性に欠け、リスクヘッジを重視する大企業に新たな事業は創れない」が定説になりつつあります。

かつて大手コンサルティングファームの戦略部門に所属していた私も、多くの大企業の新たな事業創造を支援していくなかで、その難しさを何度も痛感しました。

新たな事業創造は、やればやるほど興味深く、自分のキャリアを捧げる領域として相応しいと思えた一方で、大企業で成すには壁が高く、奇跡的な確率でさまざまなピースがタイミングよく揃わないと実現できないことであると感じたのです。

そこで、新たに事業を興すということを体現・体感したかった私は、大企業を支援する戦略コンサルタントの立場から、スタートアップ経営者という立場に転身しました。スタートアップとしての働き方は実に軽やかでした。日常の業務において、わざわざ資料を作り込み誰かに何かを説明する必要はまったくありません。形式的な長い承認フローもない。

そもそも同じ志を持っている同世代の者で集まって働いているから、人生観や仕事に対する考え方の根本が同じです。つまり、話が早い。自分たちのリズムで、自分たちが思うように事業創りを進めることができました。

スタートアップを続けていると、嬉しい意外性にもよく出会います。思いがけない顧客の一言で心が弾んだこともあれば、突然に国際的なアワードの受賞を知らされたこともありました。大企業との契約が一気に成立したことで売上が急増したという嬉しいサプライズも。あっという間の5年は、今思い出してもスリリングな日々でした。

楽しみながら事業創造に没頭し、実生活としては寝る間もないほどに働いていたスタートアップ経営者の一人として気がついたことがあります。それは新たな事業創造における大企業の優位性です。あれほど相性が悪いと思っていた「大企業×事業創造」の組み合わせは、実はベストな組み合わせだったのです。