【前回記事を読む】なぜ大企業は、新たな事業創造において失敗を繰り返すのか? ―「大企業にしか狙えない領域」を選べていないから。

はじめに

値下げを軸とした競争を行っていたために、契約回線を増やすという本業において他社とし烈な競争を続けながら、もう一方では、収益確保を目的としたコストカットと新たな稼ぎ方の模索が続けられていました。しかし、新しい取り組みを進めようとするたびに、大企業ならではの各所からの大きな反発が生じます。

深夜に関係部門と白熱のコミュニケーションを取ることもあれば、効率化を目指した大きな取り組みの開始にあたって、全国の支社から丸一日にわたって、ひたすらに不満を頂戴するミーティングも体験しました。全国のドコモショップを対象にしたある新たな取り組みが上手くいかずに、支社・支店からの問い合わせ電話が鳴りやまなかったことも。

別の新たな取り組みでは、全国のドコモショップスタッフから、読み切れないくらいの量の怒りが滲んで見える改善要望が届きました。

日本有数の官僚的組織が必死に時代を追いかけている、そんな構図です。この時代に積み上げた成果は後々には大きな収益を生み出す財産として評価されますが、当時はただただ無我夢中で走り続けるのみの日々でした。

思い出話は尽きませんが、私のキャリアはこういった環境から始まっているため、大企業で新しいことを成し遂げる大変さは十分に理解しているつもりです。一方で、そんなリスクヘッジ志向で動きが重い大企業も、徐々に各組織が腹をくくり始め、共通のゴールがセットされると、いつしか皆が前だけを向くようになります。

一人一人が全力で走りながらさまざまな調整を繰り返し行うことでさまざまな歯車がかみ合いだし、最後は倒れ込むように日本全国に一気に新しいものを展開するという大企業の強さを何度も味わいました。したがって、大企業に属するすべての人は、本当は知っているはずです。大企業の底力を。大企業が秘めた力を出しきれば、新たな事業創造などできないわけがないということを。