【前回記事を読む】【もう時効?バブル期銀行"裏話"】「重い罪、権限逸脱」と大声で説教されたが、結果として多大な利益があったのだから…

2. Global Octane(ガソリン添加物)プロジェクト案件

1990 年代に入ったばかりの頃、日本の商社はオイル・ガス案件で活発に主プレーヤーとして、米国内でも存在感を示していた。

自動車を巡って環境問題や燃費問題への注目度が高かった中で、燃費向上、排出ガスのクリーン化、エンジン内の燃えカス除却の効果を持つガソリン添加剤 MTBE(メチル・ターシャリ・ブチル・エーテル)を精製するプラント建設プロジェクトを某大手商社が単独出資で行うこととなった。同社化学プラント部の威信を賭けた案件である。

経験豊かなメジャー幹部 OB をスカウトして社長に据え、首尾良くプラントも予算内、スケジュール通りに完工。稼働後、製品も基準通りの品質のものが安定して産出される水準に達したのに、親会社の完工保証(工事完成保証)が外れない。

通常のプロジェクトでは、完成迄のリスクはスポンサーや工事会社が取って、完工保証をファイナンス提供者である銀行に差し入れる。そして契約に定めるオペレーションが順調に一定水準以上に安定する基準をクリアしたところで、この保証は外されることになっている。

この案件では、物理的完工に加えて、一定の信用基準を満たした主体による製品の長期引取契約が予定産出量の 100%をカバーしていることが、その条件に加えられていた。

というか、当行と同スポンサー商社との交渉時に、スポンサーサイドより「市場ニーズの大きい製品だから 100%引取されるとの条件は問題ない」との発言があり、そのまま導入されていた。

エクソン、モービル、シェル、アモコ、シェブロン等の名だたる引取手が次々と長期買取契約を結び引取量の 90%はカバーされたが、残り 10%についてなかなか詰まらない。

オペレーションが始まって半年経った。市場のスポットで売っても高くさばけるので、寧ろ採算は良くなっていたし、仮に 80%しか売れなくても、十二分に返済はできる潤沢なキャッシュフローを産んでいた。DSCR(デッドサービスカバレッジレシオ)(1)は、2倍近くあったのだから。

そんな優良案件でも、契約をしてしまったからには、銀行団より条件 Waive(放棄)の合意を取る必要があった。

因みに、この時の契約書には、完工保証を外すのに必要な完工条件充足を認定するには銀行団の 100%の同意(与信金額の割合の合計)を要した。

実態的に物理的に出来良く完成し、オペレーションも順調で将来に渡って返済に十二分なキャッシュフローを産み続けるので Waive(権利放棄)して欲しいと、 Agent の当行が同社社長のボブと各参加行(8行)を訪問して口説いて回ったところ、当行含む7行迄はすんなりと応諾が取れた。