夏鳥
軒先で燕たちが子育てをしている。
遠い南から海を越え山を越えて、毎年やってくる。古巣を泥で上手に修復して、卵を産む。しばらくするとか弱い声がして、卵が孵ったとわかる。
親鳥らは交替で餌を運び、気がつくと茶色の頭が窮屈そうに並んでいる。そうしてある日突然、いっせいに雛が巣立つ。
近くの電線に肩を寄せて止まっている雛たちは、まだ大空を飛ぶ勇気がないのか、巣の中で感じていた兄弟の温もりが恋しいようだ。
今年は真夏日になったかと思うと遅霜が降りるなど、気温の変化が激しく、鳥たちも大変だ。春から夏にやってきて繁殖し、秋にまた戻っていく渡り鳥を、夏鳥という。梢でカッコウの声がし、水田ではカルガモが餌をついばんでいる。
遠くの田んぼの畦には長い嘴の白い鳥が、すっくと首を伸ばして佇んでいる。白鷺だ。風格のある姿が美しい。
散歩途中の猟犬は視力がよいので、遠くにいる鳥やライバル犬を見つけると、突然甲高い声で吠えながら、やたらと飛び跳ねる。標的を発見した喜びで身体が突き動かされているようだ。
犬は、サイトハウンドとセントハウンドに大別される。視覚(サイト)で獲物を見つけるか、嗅覚(セント)でかぎ分けるか。若い猟犬は常に首をもたげて、遠くを見つめている。一方の老犬は、人間同様視力が弱り、耳も遠くなった。
しかし嗅覚は健在だ。
来た道も行く道も、夏鳥が見守っている。
(二〇一七・六)