逃走は順調だった。何もかもが想定以上にうまくいっている。だがカイが城の敷地内を巡り外界への入口・大手門に着いた時、馬の足が停まった。
(勝。どうした?)
馬は行く手を睨むように嘶いている。人影のない大手門が音を立て、外に向けて開き始めた。門の外に見えてきたのは、数十名からなる軍勢だった。
「暗殺者よ。やはり貴様であったか!」
後方から聞き覚えのある大声。もと大坂城代、この時点で老中の一員となっていた土井利位だ。
その実は平八郎と対峙したこの土井も首実検の宴に招待されていたのだが、大広間に向かう途上「義手」云々という意留と奏者番の会話が聞こえて来た。物陰に隠れて松の廊下を歩くカイを確認した。ピンときた。あれは大塩を守らんと短筒をこのわしに向けて構えた隻手の小僧ではないか? すぐにその場を辞し、急遽集められるだけの軍勢を揃えて待ち伏せた。
「ああ、大坂城のおっちゃんか。久しぶり!」
不思議と心からの懐かしさと笑みが浮かぶ。時が逆行した。敵はあの時と同じく精鋭を引き連れている。先程までのおもちゃの兵隊とはわけが違うだろう。革袋のリボルバーを確認する。もう蓮根は残ってない。
次回更新は9月6日(土)、11時の予定です。
【イチオシ記事】妻の親友の執拗な誘いを断れず、ずるずる肉体関係に。「浮気相手と後腐れなく別れたい」と、電話をかけた先は…
【注目記事】何故、妹の夫に体を許してしまったのだろう。ただ、妹の夫であるというだけで、あの人が手放しで褒めた人というだけで…