経営や事業開発に近い部分には優秀な人材が、社長秘書には顔の可愛い女子が配属され、それだけでこれから始まる社会の縮図を見たような気がしたのだった。理子は無事、志望していた企画・アシスタントディレクター職に配属され、それから現在は新規動画メディアの立ち上げに関わっている。

「豊橋君って経営企画だったんだよね。新卒の当時、優秀だって噂されてたよ」

「そう」

「今は新規事業開発……って言ったっけ? どんなことしてるの?」

「読んで字の如くって感じ。どういうことにお金と時間割いてやっていけばいいかっていうのを企画立案して、そこから事業にしていく」

「へぇ~……なんかすごいな。それって会社の経営にもかなり近い仕事だよね?」

「まぁ、そうかもな」

「私は事業部の中でしか企画作ったりしてないから、そういう大きな仕事も憧れるなぁ」

理子は絶えず相手の言葉の中から次の質問に変えられそうなワードを探している。そしてそのワードを広げ、自分に置き換えて謙遜し相手を持ち上げる。それが社会に出て学んだ、円滑かつ相手を気持ちよく話させる手法だった。

「あのさ」

「うん?」

「俺相手にそんな気使わなくていいから。同期だろ」

一瞬息が止まった気がした。それでもすぐに、理子は笑顔を作る。

「あはは、そうだね。もう顔を見るのも配属以来? とかだから。ちょっと変に緊張しちゃって──」

「お疲れ~!」

「お疲れさま~!」

そこへ、残りの4人がいっきに入ってきた。女子は理子あわせて2人、男子が秋斗を含め4人。

それぞれ久しぶりだとか、何してたのだとか、そういう話題でひとしきり盛り上がる。飲み物のオーダーを取りに来た店員に急かされ、みんな一律で生ビールを頼んだ。

「桃川ちゃん、ビールで大丈夫だった?」

理子は隣りにいる女性同期の桃川に声をかけた。可憐で可愛らしく、それでいてうちの会社でこれだけ長く働いているのだから芯もありそうだ。

「あ、私は……うん。でもそんなに飲めないから、お酒はこれ1杯かな~」

「私も。こんな感じなのに飲めないのかよってよく先輩とかにいじられるけどね」