【前回の記事を読む】まっすぐな自分が浮いてしまう職場で……それでも私は自分を嫌いになりたくなかった

訳アリな私でも、愛してくれますか

「お疲れさま~」

「お疲れさま」

(うーん、この人誰だっけ……男性陣の名前は確か……)

顔は見たことがあるような気がするも、その名前が思い出せない。人と対面するときはスマホを見ないようにしている理子も、このときばかりはLINEで名前を見たいと思った。

それで誰が誰なのか一致させられるかも自信はなかったけれど。

「えーっと、他の子はまだ……だよね」

「うん」

(どうしよう、会話ないな……)

会話の糸口を探すのは得意だと思っていたが、名前もわからないしそれを相手に悟らせてしまうのも気が引ける。とにかく情報を探ろうと無難な話題を振ってみる。

「お仕事どう? 大変?」

「別に。普通」

「そっか……後輩とかとは、うまくやってる?」

「それなりに」

「結構、同期の人数減ったよね」

「……俺の名前、覚えてる?」

「え……」

ずばり一番突かれたくないところを突かれて、言葉に詰まってしまう。

(こういうときってどう切り抜けるのがベストなの……!?)

置かれたことのない状況に、頭が急速回転する。しかし、最適解はわからずに、相手の方が先に口を開いた。

「豊橋秋斗、ね。新規事業開発部の。新卒配属のときは経営企画だった」

(ああ……入社のときに優秀だって騒がれてた子だ)

7年前の記憶を手繰り寄せる。理子が入社したのは業界でも名の知れたIT企業だ。社員規模も1000人を超え、毎年入社する新卒の数も年々増えている。理子の代では約150人が入社し、その配属先で会社からの期待度を占ったものだ。