【前回の記事を読む】「飲もうぜ、まだイケるっしょ?」「飲めるっちゃ飲めるけど…」"ノリが悪い"と思われたくない。話にのってお酒を飲むが…
訳アリな私でも、愛してくれますか
自分はわきまえたブスとして、可愛い女の子を引き立てるのだ。決して周りに、『こいつもしかして自分のことを可愛いと思ってる?』と思われてはならない。
男子が自分の部署にいる可愛い女子についての会話をはじめて、急にぽつんと会話から弾かれる。ふと空いた皿やグラスを下げていると、秋斗と逆隣にいた桃川に目がいく。彼女は何度も自分の腕をさすり、小さく震えていた。
「桃川ちゃん、寒い?」
「あ、うん、ちょっと……寒くない?」
「ちょっと寒いよね。そこ、エアコンがよく当たるのかも。場所変わろっか?」
「あ、ううん、そこまでじゃないんだけど……」
「じゃあ、私のカーディガン貸してあげる」
桃川はありがとう、と笑顔で理子の厚意を受け取ってくれた。カーディガンを羽織って笑いかけながらお礼を言う様は、理子が男なら落ちるだろうと思ってしまうほどだ。
「どうした、桃川ちゃん寒い? 俺の上着貸すよ」
「おいおい、俺が貸すって。いいとこ取りすんな」
男子たちが何やら騒ぎ出す。理子は理解しているつもりだ。可愛い女の子を前にしたら、俺が俺がと取り合う素振りを見せるのが、彼らなりの気遣いなのだろうと。
その実、女の子を可愛いものという記号としか見ていないだけであるということまでは理子もまだ気づいていない。
ふと隣を見ると、秋斗は誰の話にも耳を傾けることなく、ただ酒を飲んでいた。
川谷が頼んだ芋焼酎をなんとか飲み干すと、頭がくらくらする。
(これが限度だ……お水頼もう)
「岡っち~追加の酒、頼んどいたから」
「え……」
目の前に置かれたのは、おそらく同じ芋焼酎。しかしここで飲めないというのは場の空気を悪くするだけだと思い直し、理子は笑顔で礼を言う。
「じゃ、美味しくいただきます」
「おう」
川谷が置いた重い陶器のグラスを両手で包む。
(さっさと飲んじゃおう……あと、隠れてお冷をもらおうかな……)