「そうか。じゃあ俺の生い立ち、いや、社長との出会いから話した方が良さそうだ。実は俺、ちょうどおめえと同い年くらいのころ、人殺しを仕掛けたんだよ。誰でもいいからぶっ殺してやるつもりだったんだ」
「それ、本当ですか」
珠輝は背筋に寒気を覚えた。
「本当だ。真面目に働くのが嫌になってな。いっそ少年院かムショにでも入り、悠々自適の生活でもしようと固く誓って、切れそうなナイフをポケットに忍ばせていたんだ。殺しの獲物に近づいて、実行しようと思ったその瞬間。じゃっじゃっじゃっじゃーん」
「どこかでファンファーレでも聞こえたのですか」
「ば、ばっかだな。これは俺様の演出じゃないか」
寺坂は腹を抱えて笑った。
「その瞬間、いきなり当て身を食らってな。持っていたナイフが飛んじまったよ。素早くそのおっさんがナイフは拾ったから、まるで何にもなかったように、誰にも気づかれなかったんだ。その人こそ、桜木稔社長なんだ」
あまりのことに、珠輝は息が止まりそうだった。
「今の俺があるのは桜木社長ご夫妻のお陰なんだ。命があるかぎり、全力を尽くさないとな」
寺坂の口調は、初めて珠輝が聞く憂いに満ちたものだった。この日を境に、二人は少しずつ自分の生い立ちを話しはじめた。