紫衣は真亜を待ちながら目を閉じた。

——お父さん、私はあの聖シュテファン教会のシャガールの青を見て、全てを許す気持ちになったのよ。誰を許すかって? それは私自身を許せると思ったの。私はお父さんが亡くなったのを病院のせいにしていたけど、本当は恥ずかしくてお父さんに感謝の気持ちを伝えていなかった自分を責めていたの。

ここまで成長することができたのは、お父さんのお陰でした、そうお礼を言いたくて叫びたくても、もう言うことができない。言葉にできない程の後悔と悲しみが胸に溜まっていたの。私が今ここに立っているのは、いつも必ず守ってくれるお父さんの愛があったから。ずっと私は自分を責めていたの。でも、あの教会の中でお父さんが微笑んでるのが見えたの。

何もかもが許された気がしたわ。お父さん、生きていたら素敵な人を紹介できたわ。とうとう人生を共に歩む人を見つけたの。私は今すごく満たされているし、これから幸せになります——

目を閉じているうちに少しうとうとした紫衣は慌てて起きた。

「ごめん、ちょっと寝ちゃった」と隣にいる真亜に言った。

でも隣にいるはずの真亜はいなかった。

——ビール買いに行くって言ってたけど、少し帰るのが遅くない?——

しばらく待っていても帰ってこない。

荷物がなくなっている。

「真亜、真亜!」

真亜の名前を呼びながらホテルを飛び出した。

クリスマスソングが流れ、ライトアップされた街並みに人が溢れている。人混みをかき分けながら真亜を泣きながら探した。どのくらい歩いたのだろう。上着も着ずに飛び出たのでみんなが振り返る。

さっきまで真亜と一緒だった。でも真亜がいない。

真亜はいない。

 

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