人工呼吸器をつけることになり、母に電話した。

「お母さん、お兄ちゃんとすぐに来て」

「そんなに悪いの?」

電話の向こうで母は震えた。

母は来る途中に心筋梗塞を起こし、一緒に父の病院に入院となった。

そして二週間後に父は亡くなり、母はその六ヶ月後に亡くなった。

「肺炎になった夜に父は苦しくて話せないからメモを私にくれたの。そこには震える 字で『はめられた。なんとかして生き延びるから明日病院を替えてくれ』と書かれていたの。 モルヒネの影響か高熱が出ていて正常ではなかったかもしれないけど、そう思った父をこのまま逝かせたくなかったの。 私は絶対に南部(なんぶ) 先生を許さないと思ったわ。でもね……」

真亜の腕の中で紫衣は一気に話し、そこで言葉を繋ぐことをやめた。

真亜は紫衣に顔を見られないように立ち上がり、

「紫衣、ビール買いに行ってくるね」と言った。

「……うん、行ってらっしゃい。待ってるね」

——この顔を見せてはいけない——

真亜はドアを後ろ手で閉めて泣きながらクリスマスマーケットの中を歩いた。真亜の心は闇に覆われていた。紫衣から明かされた悲しい秘密が、彼の内に深い悲しみを呼び起こした。まぶたに広がる涙に混じるのは怒りともどかしさであり、混沌とした感情の嵐が胸の奥で渦巻いていた。