【前回の記事を読む】突然の彼からの呼び出し。私の頭の中には『結婚』という二文字しかなかった。しかし彼の口から出たのは思いもよらぬ言葉で……
不可解な恋 ~彼氏がお見合いをしました~
「お見合いを楽しみにしているって。だから、僕には好きな人がいるって言ったんだ。そうしたら泣き出して……」
「はぁ。なだめてたのね」
「そんなとこかな」
どうしたもんだろう……。社長からお見合いを頼まれたのなら、俊雄さんも断り切れないのは理解できる。でも、でも……私の立場は?
気持ちがモヤモヤする。
「悠希さんってどんな人なの?」
「お嬢様って感じの清楚な感じかな」
「性格は?」
「悪いっていう評判は聞かないよ」
お嬢様で性格も良い……最強じゃん。彼女と結婚したら、勤務している出版社の後も継げる。マジで最強過ぎじゃん。何処にもマイナス要素がない良縁だ。
私の心の中に、黒いモヤがはびこる。俊雄さんを信じてはいても、そんなに条件の良い女性を断る事ができるのかと、色々と考えてしまう。
「……分かった。仕方ないよね、社長の命令じゃ」
「嫌な思いをさせてごめん。でも、ちゃんと断るから」
果たしてそれができるのか、そこが疑問だった。俊雄さんは女性慣れしていない。二十七歳にして、女性と付き合ったのは私が初めてという人だ。その悠希さんに泣かれても断れる? しがみ付かれても振りほどける? ……多分、俊雄さんにはそれができないと思う。優し過ぎるから。
私は黙ってアイスココアを一気に飲み干した。もう私に言える事は何もない。後は俊雄さんの問題だ。彼がちゃんと断ってくれれば良い。断ってくれさえすれば……そう思うしかない。
「それで、お見合いはいつなの?」
「今週の土曜日」
「そう」
「悠希さんが早くしたいと言っていたみたいで」
それだけ悠希さんが俊雄さんに熱を上げていて、直ぐにでも結婚をしたいという意思表示としか考えられない。
「私は……俊雄さんを信じてるから」
「その信頼は裏切らない」
手をギュッと握られる。でも、本当に……本当に大丈夫なのかという思いだけは拭い切れない。実際に断ったという報告を聞くまでは、私はモヤモヤとした気分で過ごすしかないのだ。
「あ、私、この後ちょっと用事があるから」
「そうなのか?」
「うん。ごめんね。……次に会えるのを楽しみしてる」
そう言って、私は喫茶店を出た。本当なら俊雄さんと一緒に過ごしたい。だけど、今の私には気分転換が必要だ。払拭し切れない俊雄さんのお見合いの話を、少しでも濁すために。