不可解な恋 ~彼氏がお見合いをしました~
「それでは本日もよろしく」
店長の長澤さんがそう言うと、私こと沢村亜紀と同僚の河合真由が、分かりましたと元気に返事をする。これがメンズ向けのアパレルショップ『JAM』の毎朝の朝礼だ。
そもそもこのショップは、男女向け両方のお店を持っている。当然女性向け店舗の店員になるかと思ったら、メンズ向けを担当する事になった。当時はどう接客して良いのか分からず、混乱したものだった。
「亜紀ぃ、こっちの商品、そっちの棚に並べてくれる?」
「うん。分かった」
真由は可愛らしい顔をしていながら胸が大きく、男性客の視線を集めている。でも、彼女は店長の長澤さんと不倫をしている。その事実を知ったのは最近の事で、二人で飲みに行った時に『内緒だけど――』と真由が酔った勢いで秘密を教えてくれた。だからどうって事はないし、仕事中に二人に変なところもないから、私は普通に振る舞っている。
でも、時々、真由が『奥さんと別れてくれたらハッピーなんだけどなー』とぼやくけど、私はあえて何も言わない。巻き込まれるのはご免だからだ。
メンズショップだが、女性のお客様も少なくない。彼氏にプレゼントしたい、という事でよく相談される。よって、私は自然とメンズファッション雑誌をこまめにチェックしている。
「あのー、おねーさん」
「はい、何でしょうか?」
「こっちのシャツとあっちのシャツ、どっちが似合う?」
よくある声掛けだ。私は両方を男性の体に当てて、直感に従って似合う方を提示する。
「こちらの方がお似合いだと思います」
「じゃ、買うよ」
「ありがとうございます」
女性と違って、男性はあまり悩まず購入してくれる。売り込み次第だけど、似合うと言うと、大抵はそのままレジでお会計という流れが多い。